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映画【ゼア・ウィル・ビー・ブラッド】   だらだら感想文

作品名:「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド

公開:2008年

監督:ポール・トーマス・アンダーソン

 
 
 

初投稿です。

 

私がこの映画を初めて見たのはたしか中学生のころでした。

その当時は映画の内容にあまり深く感銘を受けてませんでした。2時間半もあるけど飽きずに見てられて面白かった、ぐらいです。

 

 

最近の自粛期間にこの映画をもう一度見てみましたが、胸にドスンときました…

これは最強で最恐で最凶な大傑作でした!!!

 

 

この映画は観客に対する説明が異様なまでに少ないので、2時間半ただただ起こったことを羅列しているだけに見えます。

 

しかし、この映画の素晴らしさはそこにあるのです!

この映画を見てからほかの映画やアニメ、ドラマを見ると、非常に説明過多で

うっとうしいわ!そんなこと見てりゃわかるから!みたいな感情に苛まれるのです。笑

(そういった作品を卑下してるわけではありません)

 

当たり前なのですが、実際の人生でこれが伏線だよーとかわかりやすく流れが示されることはないですよね。この映画は実際の人生に非常に近い視点で描かれています。

 

 

この作品を最大限に楽しめるのは

 

1.主人公ダニエルの内面にかなり共感した方

2.もともと非常に感受性の強い方

 

わりと共感がベースになっている気がします。

この2つに該当していた人ほど激烈に感動すると思います。



ダニエル・プレインビューという人物は何者なのかわかりません。

 

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ただ、人間が嫌いだと語っています。ビジネス上の敵やイーライに対する態度を見れば、彼らに対して憎悪を持っているのは明らかです。

 

ダニエルの根底には人を押しのけて自分が勝利したいという意味での欲望が渦巻いており、それが資本主義の本質ともとれます。みごと同業者たちに勝利し、莫大な富を得たとしてもその財力の使い道が無いところは、彼がいかに空洞化した人物であるかを物語っています。

 

そう、彼は憎き人間どもに勝利するためだけに働いているのです。

 

 

しかし、息子H.Wやサンデー家のメアリーに対する態度に憎悪は見られませんでした。

冒頭、採掘現場で父親を失ってしまった赤ん坊のH.Wをあやすシーンは、ダニエルが

赤ちゃんに愛情をもって接しているように見えると思います。

(やや手荒な子育てですが…笑)

本当に人間に憎悪を抱いている人間が、商売のためだけにわざわざ孤児を引き取って育てるのでしょうか?

 

ダニエルと子供との関係を示す描写は比較的多いです。

 

楽しそうに追いかけっこをしているメアリーを空気を読まずに強引に引き留めて語りかけたり…

盲目になって気力を失ったH.Wを羽交い絞めにして医者に診させたり、無理やりウィスキー入りミルクを飲ませたり…

 

その様子は不器用な親戚のおじさんのように見えて、切ないのです笑

 

しかし、それまで毅然としていたH.Wが石油の突出に巻き込まれた直後、ダニエルに

「行かないで」と懇願しましたが、その願いは聞き入れられませんでした。

確かにダニエルはあの事業を間近で見届ける必要があり、あの瞬間は仕事を優先する

しかなかったと思います。(あの家にお母さん的な存在がいれば、もう少し未来は違ってたのかもなあ…)

 

 

この通り、ダニエルの優しさはすべて一方通行で独りよがりでした。

愛情表現が苦手で不器用だが、愛するわが子のために何かしてあげたい、という彼の根底の部分には尊重しますが、、やはり子供に対して真の意味で寄り添えなかった毒親でもあるのです。

 

そして、ダニエルが持っていたのはH.Wへの無償の愛ではなく、等価交換に近い愛だと思いました。

ダニエルは、将来的にH.Wが自分に対して感謝し尊敬してくれることを望んでいたことは明らかです。将来、自分(ダニエル)の考えにすべて賛同し、横で自分を支えてくれる特別なビジネスパートナーになってほしくて、幼い時から仕事場にH.Wを連れてその準備をしているように見えました。(最終的には後継者になってほしかった?)

 

私は「子供を持つことは将来の投資になる」という考えを否定しません。

しかし、その”投資”に失敗したからといって子供と縁を切ってしまうのは極端な選択だと思います。

きっと”投資”の過程で何かしら失敗があり、それは子供だけの責任ではないのだから。

あの局面では、子供の考えを一度すべて受けとめる”母性”なるものが必要でした。(やはりお父さんだけでなく、お母さんのような存在が必要だった)

そうすれば、結果的にその投資の負けを減らす方向に動いたかもしれません。

 

ダニエルは子育ての見返りとして求めていたものが返ってこないとわかると息子に真実を伝え、完膚なきまでに突き放してしまいます。

 

 

結局、ダニエルはあれだけ渇望していた家族の愛情を手に入れることはできず、手元にはあの豪邸と莫大な財産しか残りませんでした。

勘当した直後、息子との思い出の回想シーンが無音で流れます。あの日常がずっと続けばよかったのに、と泣きます

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ちなみに、ダニエルは作中で2回ほど息子を突き放してしまうのですが、どちらもその直後に人を殺めています。

もしかしたら、息子H.Wが隣にいたことでダニエルの精神の均衡が保たれ、そういった衝動が抑えられていたのではないかと邪推してしまいます(考えすぎかもしれないが)

 

人が嫌いなのに、人の愛情が欲しい…誰しもがそのような矛盾した精神状態に陥ったことはあると思います。(メンヘラ)

そのような現代的な悩みを直視させてくれる未だかつてない映像作品であると再確認しました!ゼアウィル最高!!